きこえる | ナノ


16  




 佐伯さんの言う店は、駅に出て反対側の通りにあった。夜には少し騒がしい、飲み屋が続く通りがある。もう時間は夜九時近かったけれど、その通りは一際明るかった。

「ここ」

 居酒屋やラーメン屋、バーが並んだうちの一つに、シックな雰囲気の店があった。ビルの一階に構えるそこは、初めて行くには少し入りづらそうだ。佐伯さんがドアを開けると、かろん、とベルが鳴った。

「……おう、颯太か」
「ども」

 入口を入って左側にはバーカウンターがあり、グラスを磨いていた二十代後半くらいの男が佐伯さんに声をかけた。知り合いのようだ。右側には二人から三人のテーブル席が並んでいた。店はそう広くはないけれど、客入りはまぁまぁだった。
 店内は薄暗く、オレンジ色の光に暖かみがあった。欧州風のアンティークな飾りが店内の至るところに施されていて、レトロなうちの店とはまた違った、味のある喫茶店だった。
 テーブル席に座るとメニューとお冷が運ばれ、佐伯さんはペペロンチーノとサンペレ、僕はカプチーノを頼んだ。

「飯はいいの」

 一応、という風に佐伯さんが尋ねたけれど、僕は首を横に振った。

「俺の高校の先輩がやってるんだ、ここ」

 あれ、と佐伯さんが親指で差した先にいるカウンターの店員が、僕たちの視線に気づいてにこりと笑った。

「颯太、あんま連れ回してやんなよ?」
「連れ回してません」
「迷惑だったらちゃんと言えよー」

 佐伯さんの先輩、と言う人が僕にも話しかけ、とりあえず頭を下げた。こういうノリは、あまり得意ではない。戸惑っていると佐伯さんと目が合い、少しだけ笑った。

「ごめんね、先輩が変なこと言って」
「誰が変だって?」
「もう絡まないでくださいよー」

 そんな会話がいくつか続き、料理は運ばれてきた。見た目にして美味しそうなペペロンチーノは、唐辛子の匂いが強い。匂いだけで胸やけしそうだった。
 カプチーノはふんわりとしたフォームミルクがきめ細かく、リーフのアートが施されていた。一口飲むと温かさが喉を伝わり、ほっとした。

「おいしい?」

 パスタをフォークに絡めながら聞く佐伯さんに、頷いて答えた。


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