くるっと向きを変えて逃げようとするものだから、慌てて追いかけた。
「ちょっ、待って!」
俺の言葉を無視して、朔くんは走り出す。思わず追いかけてしまう。
追いかける必要なんてどこにもない。拒否されたなら、放っておけばいい。でも、それが出来ない。勝手に身体が動く。
あぁ、くそ、と自分自身に悪態を吐いた。
こんなに執着してしまうのは、初めてだった。
「あっ!」
数メートル先を行く朔くんが公園に逃げ込もうとし、入口の数段の下り階段に、足を取られた。かくんと折れて、姿が見えなくなる。
慌てて駆け寄ると、階段の下で座り込んでいた。
「朔くっ……大丈夫!?」
「っ…………」
朔くんは肩で息をしながら、左足首を押さえていた。痛むのか、時々息を詰めている。
「捻った?見せて」
ぶん、と首を横に振られる。
「いいから!」
本当に、調子が狂う。
お人好しなのは、人と接するのが好きだからだ。誰かを叱るのが好きなわけがない。
こうやって、心配で仕方なくて声を荒げてしまうなんて、俺らしくなかった。
ぐ、と朔くんのズボンの裾を捲くり上げると、やや熱を持っているように赤くなっていた。恐らく、これからじわじわと腫れていくだろう。
俺のせいだ。
「ごめん、俺が追いかけたりしたから…………」
「…………」
「病院、連れて行く」
逃げようにも動けない朔くんを背負って、近くの病院まで運んだ。抵抗する気力もないのか、朔くんは俺の背中で大人しくしていた。
昨日の夜は、突き飛ばされたんだっけ。
最寄りの病院に行って、診察を受けることになった。
「次の方どうぞ……って、朔くん?」
朔くんを背負ったまま診察室に入ると、中にいた若めの男性医師が声を上げた。眼鏡をかけた、三十代くらいの優男だ。入ってきた俺の顔を見て驚き、背中にいる朔くんを見てさらに驚いている。
どうやら、知り合いらしかった。
「ど、どうしたの」
「すみません、俺のせいで、朔くん転んじゃって」
「あらら」
いくつか軽い検査を受けて、朔くんには捻挫という診察が下りた。朔くんは相変わらず無表情で、一点を見つめていた。
「はい、診察は終わりです。………すみません、ええと」
「佐伯です」
「佐伯、さん。ちょっといいですか」
医者が、何故か俺ににこりと笑った。
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