5
「俺持ってたら見にくいし、真ん中の奈津が教科書持っててよ。はい」
「っ、あ、う」
「奈津、私にも見せてください」
僕が教科書を開いて、2人が中を覗き込む。
皆川先生が、黒板に文字を書いていく。
下らない会話。
怒られて。
紙に黒板の字写して。
問題を解いて。
質問をして。
(あ、)
そっか。
(普通の、高校生、だ)
チャイムが鳴る。
「よっしゃ、授業終わった!奈津、帰ろ」
「あ、っうん、」
「では私も」
「日下部は補習な」
「えー……」
「ざんねーん。行こ!」
うなだれる満月先生と、笑って手を振る皆川先生を後にして、僕らは帰った。
少しだけ、世界が、きらきらして見えた。
前へ top 次へ