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「……痛くない?」
「……へーき、」
航が僕の腕を消毒している。
僕はまた、やってしまった。
気付いたら左腕が赤に染まってて、航が僕を抱き締めてくれていた。
記憶はない。
突然に僕は、恐怖に落ちる。
「ん、おわり」
「……あ、りが」
とう、と言おうとした瞬間に抱き締められた。
頭を優しく撫でられる。
「大好き、奈津、ずっと傍にいて」
「……ん」
「好き、好きだよ」
何度も何度も降ってくる、航の言葉。
僕が一番安心できる場所。
僕が一番安心できる時間。
弱くてもいい、と。
汚くていい、と。
肯定してくれたあなただから。
「僕、も……好き」
「うん」
「航だけが、いちばん、好き」
「うん」
わかってる、と言うようにぽんぽんと背中を叩かれた。
気付いたら、恐怖はなくなっていた。
腕の痛みが、やけに現実的に感じられて。
なんて馬鹿なことしたんだろうと思う。
僕はこんなに、幸せなのに。
もう、一人じゃないのに。
「ありがと、」
「うん」
ねぇ、
僕にも航のために、何か出来るのかな。
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