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学校が終わって、家に帰る。
授業と生徒会と、へとへとになってはいるのだけど、家に着いたら自然と頬が綻ぶ。
部屋のドアを開けて、
「おか、おかえり、なさい……っ!」
開けた瞬間、お腹に温もり。
顔を見る間もなく、千夏が抱き付いてきた。
ぐりぐりと頭を擦り寄せてくる様子に、尻尾が見えるみたいだ、と苦笑した。
「ただいま。いいこにしてた?」
「うんっ、」
離れようとしない千夏をそのまま抱き抱えて、ベッドに座った。
会えなかった時間を埋めるように、千夏はいつもこうやってべったりする。
それだけ必要な存在になれたのかと思うと、嬉しくなった。
「あ……ご、は」
「ん?」
「ごはん、あの、できてる、って」
お手伝いさんが伝えてくれたのだろう。
教えてくれた千夏にいいこ、と頭を撫でた。
最初の頃は触れられることでさえ嫌がったのに、今では気持ち良さそうに目を細めている。
少しずつの千夏の変化に嬉しくなると同時に、ちょっとだけ、怖くなる。
(………いつか、)
千夏が外の世界に出て、いろんなひとと出会えるようになったとき。
今のように俺だけを見てくれることは、なくなってしまうかもしれない。
歪んだ独占欲。
自覚してはいたけれど、どうしていいのか、わからない。
「ゆ、じ……?」
「あ」
考え込んでしまっていた。
心配そうに見上げる千夏の額に、一つキスを落とした。
今だけ。
今だけでも。
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