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side.満月



「……ちょっと、暑苦しいよ」
「このままで寝んの。ほら」
「………もう」



俺と恭平は、お互いが社会人で。
仕事だってあることはわかってる、だから一緒にいられる貴重な時間を、大切にしてる。

そう、大切に。
恭平は決まって、俺を抱き締めながら寝る。
子どもじゃあるまいし、とは思うのに、その腕のなかが心地いいのは明らか。



(あ、寝た……)



疲れているみたいだったし、恭平はあっという間に眠ってしまった。
普段は見られない寝顔に、少しだけ頬が緩んだ。



(俺も寝よ、)



目を瞑ると、恭平の息遣いがよく聞こえた。
わずかに身動ぎして恭平に近寄ると、無意識だろう、ぎゅっと抱き締められる。

幸せだなぁ、と、
離れたくないなぁ、と。
思ってしまう。

一度、幸せを知ってしまったら、それを手放すのが怖くなる。
手放さなければいけないときが、いつかくるのだろうか。
手放されるときが、いつかくるのだろうか。

来るか来ないかもわからない恐怖に、俺はいつも、夜を奪われる。



「っ……は、っ」



息苦しい。
怖くて、震える。

大切な人はいつも、俺の目の前で、消えていく。



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