5
side.葵
背中を撫でる大きな手が、僕を起こした。
「………」
抱き締められてる。
この、匂い。
「あさ、くら、さん……?」
声が擦れた。
ぴくりと手が止まって、身体が引き離された。
朝倉さんを視界にとらえる前に、唇が重なった。
「ん、っ……?」
いつもと違う、短く、優しいそれ。
また抱き込まれて、頭や背中を撫でられた。
次第に横にされ、目蓋にキスが落ちた。
「……寝な」
「……?」
「お前、疲れてんだって。いっぱい寝て、飯もちゃんと食って、また俺の、っ」
朝倉さんが、言葉をつまらせた。
また俺の性欲処理になれって、言いたいんだろうか。
ふと、顔に影が落ちた。
ぺろりと、唇を舐められた。
「……また俺の、そばに、いろ」
泣きだしそうな、笑顔。
やっぱり僕は、朝倉さんのことが、よくわからない。
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