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side.譲
「……明日、ですか」
「急に決まってさ」
「………」
雨宮がソファの上で、黙ってクッションを抱き締めた。
最近、妙に忙しい。
雨宮を家に呼んだのも久しぶりで、今も明日からの三日間の出張準備に手を動かしている。
出張が終われば、一息つけるんだが、
「……や、です……」
「は」
「いや、です……っ」
「………」
珍しい。
雨宮が我が儘を言うのは。
普段ならそんな雨宮を淋しがらせないように、いろんな策を講じる。
でも、そうにしても、今の俺にそんな余裕はなかった。
「……仕方ないだろ、仕事なんだから」
「………いや……」
苛々、した。
「我が儘言うな、ガキじゃあるまいし」
「っ………」
ぐ、と雨宮が言葉を詰まらせた。
いつもなら、ごめん、って。
一人にしてごめん、って、言ってやれるのに。
頭は、冷えなかった。
「……先に、寝ます……」
「………」
「お、やすみ、なさい」
うなだれて、雨宮が寝室に行った。
一つ、溜め息をついた。
社会人である以上、毎日顔を合わせていられるってわけじゃない。
高校生の雨宮は、十分にわかってると思うのに。
(………大人気なかったな)
これから三日間の空白が、怖い。
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