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航が、僕の傍を、離れていく。
考えるのが、辛かった。
「……は、っ」
ソファに蹲って、苦しい胸元を押さえる。
苦しさに生理的な涙が溢れた。
息が、うまくできない。
このまま、死んじゃうのかと思えるくらいに。
「はぁっ、は……っあ」
(……もう、いい、のかな)
航がいなくなるなら、生きてたって。
左腕に手を回した。
ざらりとした皮膚の質感を確かめて、ただ、がむしゃらに引っ掻いた。
「ふぅっ……う、ぇっ」
柔らかな皮膚が破れて、血が流れた。
息が苦しい。
腕が痛い。
心が、悲鳴を上げた。
「行かな……で、っ……」
お母さんも、航も、満月先生も、みんないなくなる。
ソファからずり落ちて、ひやりとするフローリングの床に倒れた。
鼓動にあわせて血が流れて、頭が痛む。
早く、鼓動が止まればいい。
「航……っ、こ……」
返事は、なかった。
目を閉じようとして、
「っ………奈津っ!」
待っていた、声がした。
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