5
side.恭平
「なぁ」
ぐいっと俯く顔をあげさせた。
満月は抵抗しようとして、俺は両頬を手で固定した。
「離せっ……」
「離すか馬鹿」
「馬鹿は、どっちだっ、」
ぼろ、と満月の大きな目から涙が零れた。
俺は慌てるどころかほっとした。
ちゃんと、感情が、あることに。
「……やっと泣いた」
「ふ、ぅっ……っ」
「あの日以来、お前俺の前で泣かねぇんだもん」
指で、拭ってやった。
同時に軽く抱き締めて、ぽんぽんと背中を叩いてやった。
「俺の前で我慢とかしなくていいから。つか、そんな間柄でもないだろ」
「う、でも、」
「でも、じゃない。満月が俺を無視しても、俺構わず付き纏うからな」
冗談っぽく言うと、満月が少しだけ笑った。
俺の肩に顔を埋めて、きゅっと、制服の裾を掴んだ。
「……ごめん」
「うん」
「……ありがと」
「うん、」
少しだけ、昔の満月に戻った気がした。
前へ top 次へ