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「……?」
夜10時。
俺にとっては、寝るにはまだ早い時間。
眠たがりで先に寝室に行った桜木と違い、ぼんやりとテレビを見ながら過ごしていた。
そんな、静かな夜。
「………」
「つ、づき……」
きぃ、と微かに寝室のドアが開いた音がした。
振り替えると、少しだけ開いたドアの隙間に、桜木の姿が見えた。
声が震えている。
目が赤いのは、眠たいそれではないことを、俺は瞬時に理解した。
「おいで」
「ん……」
矢継ぎ早に事情を聞き出すのは簡単だけれど、消え入りそうな桜木の雰囲気を見れば、すぐにわかる。
聞き出して思い出させるのも、可哀相だ。
……昔の夢でも見て、飛び起きたのだろう。
突っ立ったままの桜木を呼んで、隣のソファに座らせた。
膝の上で拳を作る固い身体をほぐすように、引き寄せて抱き締めた。
「起きちゃった?」
「ん……ごめん…」
「何で謝んの。俺はまだ起きてたし、平気」
きゅっと裾をつかまれた。
「汗かいてる。シャワー浴びといで」
「うん……」
いつもの強気な様子と違い、弱々しい。
とてとてとバスルームへ向かう背中を見送った。
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