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side.満月
それはまだ、奈津が高校に入る前のこと。
奈津を家に引き取ってから3年は経っていた。
少しずつ状態が良くなってきて、俺は安心してきた。
そんなとき、気が緩んでしまったのか俺が体調を崩してしまった。
今まで頑張ったから、と今は上司とも言うべき親が奈津をしばらく預かることになった。
確かに今まで気負ってばかりで、あまりゆっくり過ごせていなかったかもしれない。
そう思うと、奈津が心配な反面、有難くも思った。
「で、なんでここにいる?」
「なんでって……学園長が遊びに行ってやれって。俺も休みだったし」
我が物顔でうちのソファに座るのは、皆川恭平。
私服姿を見るのは久しぶりだった。
「……これ飲んだら帰れよ」
「えー」
あくまで客だ、俺はぬるめのコーヒーを差し出した。
猫舌の恭平が恐る恐るカップを口にしながら、ふとベランダの向こうを見た。
「そういや、あんときもこんな天気だったな」
「?」
視線の先を合わせた。
うざったいくらいの快晴。
春特有の少し薄い青。
薄桃色の桜の花びらが、ふわりと舞っていた。
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