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「すっかり話し込んでしまいました。そろそろ帰りましょうか」
満月先生と、皆川先生と、航と、僕。
保健室は居心地がよくて、みんなと過ごすのも楽しくて、ついつい長居してしまう。
夏の陽の高さはどこへ、すっかり辺りは暗くなっていた。
「わ、ほんとだ。奈津、帰ろ」
「うん」
「さようなら、気をつけて」
「じゃーな」
先生たちに見送られて、僕と航は保健室を出ていく。
「……わ」
「誰もいないし」
ね、と言って、航が手を握ってきた。
「こーんなことしてもさー」
「ひゃっ」
暗い廊下、航が不意に頬にキスしてきた。
誰もいないとはいえ、学校は少し恥ずかしい。
「帰ったらごはん食べよー」
航はいたって普通。
僕は航の一挙一動にあたふたして……嬉しくなるんだ。
「……」
「……!」
黙って、手を強く握り返した。
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