1
いやだ。
いやだ、いやだ。
狭いエレベーターの中では、誰も助けてくれない。
「っん、ん……っ!」
ぴちゃ、と水音がして、耳を塞ぎたくなった。
「んふ、んっ……は、」
「おやすみ」
ようやく唇が離れて、息が出来るようになる。
乾君がにやりと笑って、エレベーターから降りた。
一人になって、ずるずるとその場に座り込んだ。
学校でも、寮でも、同じだった。
乾君は僕を見つけては、嫌がることをしていく。
僕が、誰にも助けを呼べないとこを、わかってて。
「っ………」
部屋に戻って、服を着たままシャワーを浴びた。
服がぺたりと肌に張りついて気持ち悪い。
乾君が触れた唇を、切れるくらい擦った。
握られた腕を、添えられた頬を、ただひたすら擦った。
「ひ、う……っえ、」
誰にも言えなかった。
先生にさえも。
これからどうなるかなんて、わからなかった。
卒業するまで、ずっと続くのかもしれない。
ずっと、先生に隠したまま。
先生は僕が卒業するまで、一緒にいてくれないかもしれない。
バレて、汚いって言われるかもしれない。
本意じゃなくても、こいびとじゃない人と、こんなことしてるんだから。
「も、やだ……」
嫌な考えがぐるぐる回った。
そんなことしか考えられなかった。
シャワーの湯と、涙と。
気付いたら、血が流れていた。
腕から溢れた血が、透明な液体と混ざって、排水溝に吸い込まれた。
前へ top 次へ