5
side.譲
俺は、わからない。
雨宮の苦しみも。
雨宮の悲しみも。
痛みさえも、わかってやれないから。
「あ……!」
びりっと腕に痛みが走った。
数秒遅れて、じわりと血が滲む。
片手に掴んだカッターに、俺の血がついていた。
まだ、足りない。
雨宮の痛みは、こんなもんじゃない。
「だめっ、やめて、せんせっ……」
足を縺れさせながら雨宮が駆け寄ってきて、俺の腕を掴んだ。
庇うように抱き締める手は、震えていて。
「だめ、っ……せんせ、痛い、やだぁっ……」
「雨宮」
「ごめ、なさっ、ごめんなさい……っ」
雨宮の手が、俺ので赤い。
「……俺、わかって、やれてないから」
「っ……?」
「雨宮のこと」
ぽた、とフローリングに血が滴った。
床にへたりこんだ雨宮の頬を優しく撫でて、傷だらけの腕へ。
ぼこぼこした皮膚は、もう二度と、戻らない。
一生背負う傷。
「ひ、っ……」
傷だらけの腕にキスをした。
びくっ、と雨宮の身体が強ばって、けれど、逃げなかった。
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