3
side.譲
午後10時過ぎ。
珍しく、雨宮から電話がきた。
少し緩んだ口角を戻さないままノートパソコンを閉じて、ソファに深く座って電話を取った。
けれど、聞こえるのは静寂。
微かに、雨宮の息遣いが聞こえた。
「……おい、どうした、」
『………』
雨宮は、話さない。
だんだん不安になってくる。
「雨宮、返事しろ」
『………』
あとはなんとなく、言われなくてもわかった。
「……辛かったな」
『……っ……』
「泣いていいから」
電話の向こうで、嗚咽が聞こえてきた。
雨宮は常識はあるやつだ。
夜の無言電話も、意図的なものとは考えられなかった。
ならばきっと、何か理由があって。
伝えたいけど伝えられない事なんて、俺にはわかりきっていた。
『ぼくっ……どう、したら、っ……怖い、』
「うん、ゆっくりでいい」
『血が、っ、止まんな……っ』
「………!」
傷付けてしまったのか。
でもその行為に、何か理由があったはず。
今も、雨宮は一人で泣いている。
きっと、あの細い身体を震わせている。
痛いほどわかるのに、抱き締めてあげられない。
もどかしくて、拳を握った。
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