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活字が流れて、ぱさりと、何かが落ちた。
(栞取れたっ……え、)
写真、だった。
僕はその場に動けなくなった。
まだ若い、日高先生。
制服を着ていて、それは、見覚えがあって。
「……っえ、なに、」
先生の隣には―――お兄ちゃんがいて。
(友達、だったの……?)
……違う。
ふつりと思い出す。
お葬式で泣いていた、お兄ちゃんと同じ制服の男の人。
呆然と座ったままだった僕には、はっきり見えた。
男の人が隠れて握った、拳に光る指輪。
それは、どこかで見た、
「え……?」
慌てて鞄から取り出す。
落とさないようにチェーンをつけて、袋にいれた―――指輪。
お兄ちゃんの―――遺品。
かしゃんと、指輪が手から滑り落ちた。
気が付いたら、先生から借りた服を脱ぎ捨てていた。
畳んであった僕の服を着て、そのまま家を飛び出した。
振り返ることは、なかった。
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