3
 

目を覚ますと、先生の寝息が聞こえた。
身体を起こすと、僕を抱き締めたまま、目を瞑る先生がいて。



「……え?」



先生が、目の前にいて。
見えて、いて。



『愛してる』



声が、耳に残っていて。

肯定された気がして。
いかなくちゃ、と思った。

そっと先生の腕を抜けた。
寝室にあった服に着替えて、部屋を出る。
もらった合鍵で、ドアを閉める。



(いかなくちゃ、はやく、)



会いたい。
伝えたいことが、ある。

僕は、駅へと行く途中で携帯をひらいた。
手は、震えたりしなかった。



『……もしもし』



久しぶりの、声。
息を、吸い込んだ。



「僕、だよ」
『……!元気に、してるの、』
「うん、僕は、元気」



懐かしい、お母さんの声。

伝えたいんだ。



「今度、家に帰るね」
『っ……うん』
「あのね、お母さん」
『っ、ごめんね、今まで、』



ううん。
僕は、一人じゃないよ。



「僕ね、今、幸せなんだ」
『……ん、』



前を、向いて。



「お兄ちゃんの分まで、生きる」



僕は、生きる。



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