1
side.譲
学校が終わったら、なるべく急いで帰るようにしている。
「………た、だいま」
今まで家に誰かいることなんてなかったから、ただいま、なんていうのは少し気恥ずかしい。
「……?」
けれど返事はなく、ぞっとしながらもリビングに向かった。
(………)
ほっ、と身体の力が抜けるのがわかる。
ソファに、陸が横たわっていた。
倒れているものではないことは、ゆっくりとした寝息が表している。
「……風邪ひくぞ」
もう暖かいとはいえ、夜は冷える。
時間も時間だ、と陸の身体を揺すった。
「……ん、」
「陸、おはよ」
「……せ、んせ……」
ふや、と笑って、ぎゅうっと抱き付かれる。
今の暗い世界で、陸にとって俺は唯一の存在。
早く治ればいいと思うと同時に、このまま俺だけのものになればいいと歪んだ欲が顔を出す。
「おかえり、なさい……」
「ただいま。退屈してなかったか?」
「ん……」
ちら、と陸の身体を見ると、膝や肘に痣が見えた。
視界の悪さにぶつけてしまったのだろう。
「……飯食うか」
「はい……」
………早く、治ればいいな。
前へ top 次へ