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side.譲
「荷物は……そうだな、最低限のものは買ってやるし、他に必要なものは今度寮から運び出すか」
色々考えていると、雨宮が神妙な面持ちで口を開いた。
「せ、んせ」
「ん?」
「その……さっき、全部、聞いたって」
「……ああ、」
「もしかして、学校、辞めっ……」
教師じゃなくなったから、一緒に住もうと言ってると思っているのか。
「辞めてねーよ、乾とは和解してる」
「わかい……」
「もう、全部終わったから」
大丈夫だ、と頭を撫でて、ソファから立ち上がった。
「そろそろ飯でも食うか」
何か作るか、とキッチンに向かったとき、
「いっ……!」
がたっ、と大きな音がした。
小さな悲鳴に振り向くと、雨宮がソファの上から消えていた。
「陸っ、」
咄嗟に駆け寄るとソファから落ちたようで、床に座り込んでいた。
「大丈夫か、頭っ……打ったり、してないか、」
「っ……へーき、です、」
まだ暗闇に慣れていないのだろう、感覚が掴めていないらしい。
余り目を離さないようにしなくちゃ、と考えていると、
「せんせ、さっき……」
「?」
「りくって、名前、で」
いわれて、気付いた。
さっきは必死だったから。
「あー……そうだったな」
「あの、なまえ、がいっ」
「え?」
「名前で、呼んで欲しいです……」
顔真っ赤にして。
「じゃ、俺も名前で呼んで?」
「っ……ひ、日高、さん」
「なんで名字」
「ゆっ、譲、さん……」
たったそれだけなのに、幸せそうに笑うから。
失った時間を、欠けた時間を、早く取り戻したかった。
もっともっと、笑わせてあげたいと、思った。
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