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side.譲



目が見えなくなった雨宮を、病院につれていった。
病気等ではなく、ストレス性のものだという診断を受けた。
薬や治療でどうこうなるものではなく、自然と治るのを待つしかないとも、言われた。

診察の間や待ち時間、車の中でも不安そうに、雨宮は俺の服の裾を掴んでいた。
突然落とされた暗い井戸の底で、頼れるのは俺しか、いない。

もう二度と離すまいと、裾を掴む手を、握った。



「ここ、住むか」



同居を提案したのは他でもない、寮に一人で住めるわけがないからだった。
学校側には診断書を出せば、休みにはできる。
寮だって名ばかりだ、点呼も門限もないため、学生マンションみたいなものだ。



「俺は仕事に行かなきゃだけど……目が治るまでは、学校も行けないし、生活だって……」
「………」
「……っていうのは本心だけど建前で、本当はずっと、一緒に住んで欲しいって思ってた」
「……!……!?」



安心させるため体温が伝わるように、ソファに座って後ろから抱き締めて、耳元で言う。
慌てる雨宮が可愛くて、思わず笑ってしまった。



「ん、そうしよう。学校休むのは、こっちで手続きしとくし……親御さん、は、」
「………」



ぎゅ、と雨宮の身体が固くなるのがわかった。

律が死んだときから、雨宮の家は冷めきってしまっていた。
理屈では犯人だとか、原因ではないことはわかっているけれど、唯一生き残ってしまった雨宮を見ると、どうしても律を思い出してしまうのだろう。
雨宮の両親は、雨宮を完全に避けるようになっていた。



「……いいか」
「……?」
「別にご両親の了解なんて取らなくていいかってな。すぐ治るだろうし。入院とかじゃないんだし」



インフルエンザで休むみたいなもんだろ、と軽く言ってやると、雨宮はなにそれ、とくすくす笑った。

やっと、笑ってくれた。



「ここに、いたいです。……迷惑じゃ、なければ」
「俺が、いてほしいの」



斯くして雨宮は、しばらくの間、うちに住まうことになった。



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