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side.譲
「せ、んせ……?」
ぽつりと、雨宮が呟いた。
「ん、」
抱き締める力を弱めて、雨宮を真正面から見た。
けれど、雨宮は、ぼんやりしたままだった。
「もう、大丈夫だから」
「せんせ……?」
ふい、と雨宮が俺から顔をそらした。
「どこ、いったの……」
まるで迷子になったように、きょろきょろと周りを見渡す。
「雨宮?」
肩をつかんでこちらを向かせようとすると、びくっと揺れた。
目は、合わない。
「どこ、どこいる、の」
「雨宮っ」
「やっ、なんで、どこっ……見えなっ……」
ふらふらと、雨宮の手が揺れた。
何かを探るようなそれ。
「な、でっ、なにも、見え、なっ……こ、わっ……」
かたかた、と雨宮が震えだした。
じわ、と涙が浮かび始めた目に、嘘だろ、という思いと共に手を近づけた。
ひらひらと振るけれど、雨宮の目は、それをとらえなかった。
(目、が、)
―――見えていない。
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