3
side.譲
嘘だろ、と何度も思った。
「俺、雨宮にっ……」
乾から、すべて聞いた。
雨宮に何をしてきたか。
どうしてそんなことをしたのか。
乾の気持ちも、全部。
「て、めっ……!」
気付いたら、乾の胸ぐらを掴んでいた。
俺よりも喧嘩慣れしているであろう乾は、けれど抵抗一つせず、俺から顔を背けた。
その姿に、頭が冷える。
俺はあくまで教師で、生徒に手を出すことはできない。
それに……俺だって、
「……?」
黙って手をおろした俺に、殴らないのか、と言いたげな乾の表情。
「俺のために、か……」
馬鹿だなぁと思う。
雨宮を失うくらいなら、教師を辞めることも、厭わないのに。
雨宮は、言い出せずに、自分一人で抱え込んだ。
俺のために、傷ついた。
溢れ出た助けの声に、俺は気付いてやれず、突き放した。
「馬鹿は俺か……」
握った拳が、痛い。
「お前も俺も、馬鹿ってことだ」
「………」
「あいつには、もう近付くな。……友達としては、付き合って欲しいけどな」
乾は、普段は見せない年相応の顔をして、泣き出しそうになっていた。
「っ俺……雨宮のこと、好き、だった……多分、今も」
「………うん」
「でも、俺じゃ、駄目だ」
俺が言えた義理じゃないけど、と乾は続ける。
「雨宮のこと、っ」
「……わかってる」
失った分、大切にしてみせる。
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