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side.乾
今から行くから、と焦った声とバタバタとした音が聞こえて、電話は切れた。
雨宮は気を失ってしまい、ソファに寝かせたところだった。
「せ、んせ、」
「………」
苦しそうに眉を寄せて、何度も名前を呼ぶ。
汗で張り付いた前髪を払って、軽くぬぐってやる。
「もうすぐ、来るから」
「……せ、ん……」
「もうちょっとだから、な、」
冷たい手に触れると、きゅっとすがるように握られた。
ずきん、とまた胸が痛んだ。
握られたとて、求めているのは、俺じゃないから。
先生から、着いた、という連絡がきた。
寮に先生は入れない。
俺は不自然じゃないように雨宮を背負って、寮をでた。
ぞっとするほど、雨宮は軽かった。
指定されたのは、寮から少し離れた公園。
車が一台停められていて、その脇に、
「………先生、」
「っ……!」
先生は、ひどく泣きそうな顔をした。
初めて見る表情だった。
「あま、みやっ」
先生が駆け寄ってくる。
雨宮を先生に渡すと、大事そうに、抱き締めていた。
「……なにが、あった」
雨宮は、車に残した。
傷もひどくなく、呼吸も大分落ち着いていて、安静に寝かせようというのが先生の見解だった。
慣れているような、それだった。
車の外で、対峙した。
射抜くような先生の鋭い眼が、あぁ、そうか、と思った。
「先生、は、」
きっと、関係がばれて職を失っても。
自分が傷つくことになっても。
雨宮の、ことが、
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