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side.譲
携帯が鳴った。
ディスプレイに残る、雨宮の文字。
話を聞いたのが昨夜で。
別れたのは今朝。
夕方になって鳴る電話。
何を話せばいい?
何を、話そうとしている?
けれど、ここで電話を取らないことは、決定的な雨宮との擦れ違いを生むと思った。
どこかで、期待していたのかもしれない。
「……もしも、」
『日高っ』
聞こえたのは雨宮とは違う声で、身構えていた身体が一瞬だけ緩んだ。
『ごめん。俺、乾』
「乾……?」
学年でも有名な悪ガキ。
けれど電話の向こうの声は、それを思わせないしっかりとしたものだった。
なんで、雨宮の携帯から?
というか、何故俺に、
『雨宮の携帯借りてる、事情は後で話す、だからっ』
「ちょ、落ち着けって、何があった」
慌てたような声が、泣きそうなそれに変わる。
『雨宮が、パニック起こしてっ……』
ひやりとした。
何故、乾が、とか。
何故、俺に、とか。
関係を知られたか、とか。
一気に、吹っ飛んだ。
『俺、どうしていいかっ……雨宮、暴れるしっ』
「……怪我は、」
パニックになっているなら、とあえて遠回しに聞いてみる。
『手首、切って……っ』
「っ……今、雨宮は」
『気ぃ、失って……止血は、した、そんなに深くはなくて……ただ、』
「?」
心臓が、止まるかと思った。
『先生、って……ずっと、呼んでる……』
瞬間、車のキーを取った。
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