6
side.乾
止める間もなかった。
「なに、やって……!」
滴る赤に、背筋が凍った。
床にぺたりと座り込んだ雨宮は、ばたばたと暴れていて。
「やだ、っ……も、やっ、こわい……っ!」
泣きじゃくりながら、傷を増やそうとする。
無理矢理カッターを奪って、遠くへと押しやった。
「暴れんなっ、傷が、っ」
体格差からして、押さえ込むのは簡単だった。
暴れなくなった雨宮は、変わりに呼吸を荒立てる。
「っけほ……っは……けほけほっ」
独特の、苦しい呼吸。
パニックを起こしてしまっているようだった。
流れる血と、涙と。
苦しそうな呼吸と。
どうしていいかわからず、咄嗟に近くにあった雨宮の携帯を取った。
発信履歴にある、『先生』の文字。
それが誰かなんて、一瞬でわかった。
「ひぅ、っは、」
重ねられた、無数の傷跡。
随分と古いそれ。
先生が、気づいてないわけはない。
「せ、んせ……っ、」
俺は、発信ボタンを押した。
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