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「いぬ、いくん……?」
突然やってきた乾君は、いつもと様子が違っていた。
急に、抱きしめてきて。
それが、とっても優しくて。
僕はびっくりして、涙が止まってしまった。
「いぬい、くん」
「………」
「は、はな、離して」
「っ……悪い」
ぱっと離れた乾君は、俯いて目を合わせようとしなかった。
ちら、と僕の顔をうかがって、心配そうな目に変わる。
「……心配、した」
「え……?」
「昨日、倒れて……様子見にきたら、いなくなってるし……ふらっと帰ってきたと思ったら」
泣いてるし、という声はとても小さかった。
「……俺のせいだ」
「え……な、なに、」
「俺が、雨宮に……ひどいことしたから」
ひやりと空気が冷たい。
乾君は目を合わせないまま、滔々と話す。
「ごめん……脅したり、して」
「いぬいく、」
「もう、何もしねぇから。雨宮に、近付かねぇから」
小さく、どこか悲しそうに、乾君は笑った。
そして、立ち上がっていく。
「ゆっくり休めよ……っ?」
お願い。
僕を、一人に、しないで。
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