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side.樹



『俺、の事……きら、い……?』



擦れた声が耳に残る。



「嫌いなわけ、ないだろ……」



嫌われたのは、俺の方。
嫌いになんて、なるわけない。



あの日。

待ち合わせの教室に、走って向かった。
教室の入口、廊下にしゃがみこむ羽鳥の姿が見えた。
また何かしようとしてるのかと思ったけれど、羽鳥の目の前には遥がいて。

会話は聞こえなかったけれど、近距離で向かい合って、笑いあって。
あんなことをされたのに、遥は羽鳥に撫でられて、無邪気に笑っていた。

耐えられなかった。

思えば、俺は羽鳥にかなうことなんてなかった。
羽鳥は男の俺から見ても、かなり綺麗な顔立ちをしている。
しかも生徒副会長。
遥との付き合いも俺よりは長いだろうし、何より遥を―――何度も抱いた事がある。



「っ………くそ」



かなわない。
俺は何も持ってなかった。
ただ一人ぼっちで、弱いあいつのそばにいただけ。
またいつ、羽鳥にとられてもおかしくない。



けれど遥は家にきた。
放ったらかしの携帯にも、何度も連絡が入った。
まだ俺のそばにいてくれるんだよなと、思い込もうとした。

でも遥は、何も言ってくれなかった。
羽鳥に会った事を、黙ったままだった。
信じたくはないけど、思うしかなかった。

遥は意図的に、羽鳥に会った事を隠してる。
それは遥が羽鳥を―――?

羽鳥の前で笑った、遥の顔が浮かんだ。
あんな柔らかな表情、俺の前しか見せないと思っていたのに。



握った拳が、痛かった。



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