2
side.樹
『俺、の事……きら、い……?』
擦れた声が耳に残る。
「嫌いなわけ、ないだろ……」
嫌われたのは、俺の方。
嫌いになんて、なるわけない。
あの日。
待ち合わせの教室に、走って向かった。
教室の入口、廊下にしゃがみこむ羽鳥の姿が見えた。
また何かしようとしてるのかと思ったけれど、羽鳥の目の前には遥がいて。
会話は聞こえなかったけれど、近距離で向かい合って、笑いあって。
あんなことをされたのに、遥は羽鳥に撫でられて、無邪気に笑っていた。
耐えられなかった。
思えば、俺は羽鳥にかなうことなんてなかった。
羽鳥は男の俺から見ても、かなり綺麗な顔立ちをしている。
しかも生徒副会長。
遥との付き合いも俺よりは長いだろうし、何より遥を―――何度も抱いた事がある。
「っ………くそ」
かなわない。
俺は何も持ってなかった。
ただ一人ぼっちで、弱いあいつのそばにいただけ。
またいつ、羽鳥にとられてもおかしくない。
けれど遥は家にきた。
放ったらかしの携帯にも、何度も連絡が入った。
まだ俺のそばにいてくれるんだよなと、思い込もうとした。
でも遥は、何も言ってくれなかった。
羽鳥に会った事を、黙ったままだった。
信じたくはないけど、思うしかなかった。
遥は意図的に、羽鳥に会った事を隠してる。
それは遥が羽鳥を―――?
羽鳥の前で笑った、遥の顔が浮かんだ。
あんな柔らかな表情、俺の前しか見せないと思っていたのに。
握った拳が、痛かった。
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