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side.樹
「父さん?……俺だけど」
『樹。まだ学校にいるのか?もう夜だぞ』
「ごめん、今日は帰れない。一人暮らしの子が熱だして……心配で」
『………はは、そうか』
「?何笑って、」
『お前は昔っから勉強ばっかりしてたからな』
「?」
『自分の事そっちのけにするくらい他人の為に何かしてるの、初めて見たな』
「そう、かな」
『そうさ。……大切にしろ』
「……当たり前」
―――やっと手が届いたんだ。
――――離すわけなんてない。
欲しくて欲しくて仕方なかった。
壊したくて、壊すのが怖くて。
触れたくて、触れるのが怖くて。
なかなか傍にやってこない、自分の弱さを見せようとしない、ねこのような子。
やっと、手に入れた。
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