5
side.樹
「捨てられた……?」
「前、から……家には、いなかっ……、けど」
つっかえつっかえ、館林が話してくれた。
「も、帰ってこなっ……俺、ひとり、に」
「ん、落ち着け」
「やっ……いや、ひとり……っ」
ふるふると、横に首を振った。
呂律の回っていない、子どものような。
ただぎゅう、と俺のシャツを握り締めていた。
「チチオヤ、も……前、出て行って、それでっ」
「うん」
「ハハオヤもっ……いなくなっ、」
「……うん」
「俺……ひとり、でっ」
少し身体を離して、顔を上げさせた。
熱のせいで頬が蒸気し、目がとろんとしている。
ポロポロと涙が頬を伝っていた。
館林の涙は3度目。
1度目は恐怖の涙。
2度目は痛みの涙。
そして3度目は。
「哀しかった、な」
「……ん、んっ……!」
「寂しかったな」
館林が何度も頷いた。
指で涙を拭ってやるが、次から次へと涙が溢れた。
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