3
「そんなんじゃない。あんた、俺の母親だろ、」
「今までなんとかやってきたんだから、母親なんていなくてもやってけるでしょ」
「おい、」
「あと少しであんたも独り立ちすんだし、たいして変わんないでしょ」
「待てって、」
話を聞いてくれない。
机に、チャリと、何かが置かれた。
見慣れた、家の鍵だった。
「これ、置いてくから」
「なっ……」
まだ若い、綺麗な母親が笑みを作った。
「じゃあね、遥」
「っ……」
ひらひらと手を振って、母親は出ていった。
今までと、何も変わらなかった。
母親が家にいないのは当たり前だったし、いても母親らしいことなんてしなかった。
だから今更出て行かれても、なんら変わりはない。
でも。
出ていって。
もう、帰ってこない。
(なんだ、俺、)
母親が帰ってくるの、ずっと、待ってたのか。
帰ってきて欲しかったのか、本当は。
(だからか、)
涙が出るのは。
俺は本当に、一人ぼっちになった。
前へ top 次へ