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「そんなんじゃない。あんた、俺の母親だろ、」
「今までなんとかやってきたんだから、母親なんていなくてもやってけるでしょ」
「おい、」
「あと少しであんたも独り立ちすんだし、たいして変わんないでしょ」
「待てって、」



話を聞いてくれない。
机に、チャリと、何かが置かれた。
見慣れた、家の鍵だった。



「これ、置いてくから」
「なっ……」



まだ若い、綺麗な母親が笑みを作った。



「じゃあね、遥」
「っ……」



ひらひらと手を振って、母親は出ていった。



今までと、何も変わらなかった。

母親が家にいないのは当たり前だったし、いても母親らしいことなんてしなかった。
だから今更出て行かれても、なんら変わりはない。

でも。
出ていって。
もう、帰ってこない。



(なんだ、俺、)



母親が帰ってくるの、ずっと、待ってたのか。

帰ってきて欲しかったのか、本当は。



(だからか、)



涙が出るのは。



俺は本当に、一人ぼっちになった。



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