5
 

「帰ろう、風邪ひく」
「っぅ、……」



涙のせいで言葉が出ずに、こくりと頷くことしかできなかった。
綺麗に服を着せて、如月が手をひいてくれた。

言葉はなくてもわかった。
帰ろう―――如月の家に。



終始無言のまま、帰路に着いた。
家に着いた頃には、俺の涙もとまりかけていた。

玄関の鍵を閉めた途端、如月がぎゅう、と抱き締めてきた。
如月の身体を支え切れず、俺はその場に尻餅をつくように座り込んだ。
互いに無言のまま、けれど俺は少なからず動揺し―――そっと如月の背中に手を回した。



「……初めて、だ」
「え……?」
「如月がこうやって、抱き締めてくれんの」
「っ……」



如月が微かに力を緩めた。
俺は苦笑して、比例するように力を強めた。



「ありがと」
「………」
「俺はもう、大丈夫だから」



如月がまた、優しく抱き返してくれた。
胸板に埋められ、やわらかく髪を撫でられた。


(……なんだろ、)


今までにない感覚がする。



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