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疲れた身体を引きずって教室にもどると、6限もHRも終わってしまっていた。
帰り支度をする生徒の中、俺は席に戻った。
「館林」
「……え?」
ふと、隣から声をかけられた。
俺の左隣、声の主である如月樹は、黒縁眼鏡をかけて本を読んでいたようだった。
素直に驚いた。
如月は成績学年トップの秀才で、俺となんかあんまり話したことさえなかったからだ。
「何?」
「お前………売りしてるって本当か?」
「は?」
如月が真剣な顔でそんなこと言うもんだから、拍子抜けしてしまった。
俺が売りしてるってことは、興味がある人は知っているだろう。
大々的に宣伝しているわけでもないから、全員知ってはいないだろうけど。
まさか、この眉目秀麗を表した如月が、知っているなんて。
「してるよ。……何、如月興味あんの?」
「………だとしたら」
「っ!」
突然、如月から腕を捕まれた。
「俺はお前を買いたい」
夕暮れに染まる教室の中。
これが俺、館林遥と。
如月樹の物語の始まりだった。
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