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唇が重なりそうになって、携帯電話が鳴った。
お互いにびくりとそれに反応した。



「……悪い、父親からだ」
「あ、うん……」



樹が携帯を持って、ベランダに出ていった。
……舌打ちが聞こえたのは、気のせいだろうか。

心臓がばくばくしているのがわかった。
キス、したかったな、なんて。
あと、ちゃんと言えた。

言うのさえ逃げていた。
言わずに自分の中で解決しようとして、空回りして、また迷惑をかけた。



(まだ、かな…)



樹はまだ電話をしているみたいだった。



(おかわり、注ご)



空になったマグカップを持って立ち上がった。
キッチンに向かおうとして、



「わっ、!」



まだ体調は本調子じゃない。
ふらりときて、思わず倒れこんだ。
手から離れたマグカップが、床で割れた。



「痛……」



腰をしたたかうって、立ち上がれなかった。



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