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side.樹
ドアを開けて、明かりをつけた。
血の匂いがして、嫌な予感がした。
「遥、……っ!」
血だらけで、遥が倒れていた。
今も尚流れる左腕の血液と、床に広がるそれ。
傍らにはハサミがあって。
ただ顔色と反応の悪さが、それだけじゃないと悟らせた。
割れたコップ。
こぼれる水。
無数に落ちる、錠剤。
息も絶え絶えな遥を、血で汚れるのも構わず抱き上げた。
「おい、返事しろっ!」
「………」
くたりとした遥は、返事をしてくれなかった。
青白い顔に、ぞっとした。
けれど微かに上下する胸が、まだ大丈夫だということを告げていて。
救急車を呼んで、ひたすら抱き締めた。
だんだん冷えていく遥に、ただ怖くなった。
もしかしたら、もう、
「遥っ……!」
追い詰めた。
俺が、追い詰めた。
気付いてやれなかった。
気付かずに、傷つけて、一人にした。
「遥、はる、か……っ」
遠くで、サイレンが聞こえた。
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