5
「っは、……げほっ」
苦しい。
悲しい。
寂しい。
そんな感情ばかりが巡る。
カーテンの向こうは、闇に溶かされ始めている。
手元にあったハサミを握った。
無感情のまま、振り下ろした。
びり、と皮膚が破ける感覚。
手首に突き刺さったそれは、鈍い痛みを作り出した。
赤が、溢れる。
まだ、足りない。
ハサミの刃先を手首に押しあてた。
ひくと、皮膚が破ける。
足りない、
足りない、
足りない、
「っはあ、……は、」
赤に染まる床。
指先が冷える。
じくじくと痛む腕。
こんなんじゃ死ねないと、頭の隅でわかっていた。
自分で死ぬ勇気はなかったけれど、それ以上に一人でいるのが辛かった。
歯切れの悪くなったハサミを置いて、血で汚れるのも構わず棚を漁る。
軽い不眠症だった母親が置いて行った、睡眠薬。
じゃらじゃらと手に有りったけだして、口に含んだ。
震える手で水を用意し、なるべく一気に飲み干した。
容赦ない吐き気に、手をするりと抜けたコップが割れた。
きっと目を閉じたら、次目覚めることはないのだろう。
だったら最後は―――樹が見たかったなあなんて。
そんなことを思いながら、俺は、目を閉じた。
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