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side.樹



「っ……くそ、」



マンションの非常階段に、俺は座り込んだ。
今しがた、家を出た。
遥の顔は、結局見れなかった。

別れたくないと。
傍にいてくれと。
言えば何か変わっていたのだろうか。
けれど俺にそんな勇気はなかった。
何度も伝えて、何度も拒絶されるのが怖かった。



(馬鹿か、俺は……)



結果がこのザマだった。
気丈に振る舞って、遥から見えなくなった途端に立ち上がれなくなった。

前を見なければ。
遥とはもう終わった。
そう簡単に見切りがつけるほど、今までの生活は軽い気持ちではいなかった。

死にたがりで、放っておけなくて。
強がりで、泣き虫で。
意地っ張りで、甘えん坊で。

好きで、好きで。
ずっと、傍にいたかった。

俺の傍にいるのが辛いと、遥は言った。
俺の存在が遥の痛みになるのなら。
俺は遥を傷つけることしかできないのなら。
だったら俺は、遥の傍には、いられないのだろう。



「はる、か」



ぽつりと呟いた名前が、狭い非常階段に反響した。
自分で作った拳が痛かった。

どうしたら、この気持ちは消える?



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