5
朝起きると、樹はもう朝食を作り終えた頃だった。
節々が痛む身体を奮い立たせて、俺はリビングに向かう。
「お、はよう……」
「あぁ」
残酷なほど、いつも通りだった。
目こそあわせてくれなかったけれど、他はいつも通り。
「あの、さ……今日、俺、学校休む……」
「……わかった」
理由は聞かれなかった。
「その間に、……出て、行くね……?」
「……あぁ」
残酷なほど、いつも通りだった。
身体が辛いのもあったけど、何よりこれ以上樹の顔を見るのが辛かった。
樹がいない間に、ひっそり立ち去りたかった。
「あとっ……えと、」
「何だ?」
「……やっぱ、何でもない」
今まで有難うだとか。
白々しい台詞は伝えられなかった。
朝食を終えて、樹が学校へ向かうのを黙って見届けた。
バタン、とドアが閉まった瞬間に、声もなく涙が出た。
もう、終わり。
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