4
side.樹
信じられなかった。
信じたくなかった。
やっと手にいれたのに、遥が、いなくなってしまうなんて。
考えるだけで、身体が冷えるようで。
「嫌だ、」
うわごとのように、何度も繰り返した。
見えない何から遥を取られないように、必死に腕を強く抱き締めた。
弱くて、脆くて、儚い。
遥はそうやって、俺の前から消えていく。
「いや、だっ……」
でも、止められないことはわかっていた。
告げられた時の、頑なな意志の強さを見て取れた目。
もう戻れないと、悟った。
朝がきたら、遥はいなくなるのだろう。
学校に行った事も。
テスト勉強した事も。
飯作った事も。
一緒に過ごした日々も。
初めて、抱いた夜も。
すべて、なくなる。
「遥、っ……はるか、」
名前を呼べど、返事はなかった。
夜が、明ける。
前へ top 次へ