7
強い火を灯していた目は、もうどこにもなかった。
ただぼんやりと、宙を見つめていた。
口に添えられていた呼吸器を外した。
色の悪い少年の唇に、自分のそれを重ねた。
初めてのそれは、落ち葉が重なり鳴るように、かさついていた。
「死にたいか」
問うと、少年は静かに目を瞑った。
それがすべてだった。
「げほっ、ごほ、げほけほっ……」
少年が箍が外れたように咳をし始め、苦しそうに身体を丸めた。
あまりにも苦しそうで、気付いたらその身体を起こしていた。
俺に寄り掛からせるようにし、背中をゆっくりと撫でた。
抱くたびに、壊れてしまいそうで恐ろしかった。
その背中はもっと痩せ細ってしまっていた。
骨の浮いた背中を、ずっと撫でた。
「は、」
次第に少年は呼吸を落ち着かせていった。
抵抗もしなかった。
望んでいた、服従だった。
この美しい少年のすべてを手にしたと思った。
すべて思い通りだった。
けれど、ぽっかりと穴が開いたような虚無感があった。
この感情をなんと言うのか、わからないけれど。
俺はただ、この少年に、笑っていて欲しいと思った。
「生きろ」
壊してしまわないように、そっと少年を抱きしめた。
少しでも力の入れ方を間違えてしまうと、傷つけてしまいそうで怖かった。
「……生きろ」
どうか、もう一度。
やり直しを、させてほしい。
だから、生きていて。
「…………」
少年は返事をしなかった。
ただ俺の腕の中でぐったりと身体を預けて。
はふ、と小さく息を吐いて。
目を閉じて、静かに、眠りについた。
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