6
知人の医者を呼んだ。
ベッドに寝かせられた少年は、すぐに入院を勧められた。
俺はそれを拒み、ここでの治療をするよう指示した。
様々な機具が運び込まれた。
少年には呼吸器が付けられ、腕にはいくつも管が通った。
針を刺しすぎて、細い腕に鬱血痕が残ってしまっていた。
ぴっ、ぴっ、と一定の音がする寝室で、少年は微かな息をして眠っていた。
「重度の肺炎を発症してる。栄養失調に、貧血もある。心臓の機能もだいぶ弱っているし、本当は入院させた方が良いと思うけど」
「そうか」
「……なぁ、もうこんなこと、」
「お前には、関係ない」
知人は、ぐっと言葉を詰まらせていた。
関係が無いのだ。
すべて、俺の欲を満たすためだった。
この少年は玩具で、壊れたら捨てれば良いし、俺が何をしようと自由だった。
ただ、この感情は、なんだ。
失ってしまう恐怖に、指先が震えた。
知人が帰り、寝室に二人きりになった。
夜は更けていた。
サイドテーブルのランプだけが点いた薄暗い寝室で、少年は長い睫毛で影を作りながら、静かに目を閉じていた。
オレンジ色の光が、ぼう、と少年を照らしていた。
死んでしまった、ような。
「っ、」
そうか、俺は。
こいつの名前すら、知らない。
何と呼べば良いのか、わからない。
「……おい」
ベッドに腰かけて少年の顔を見下ろしながら、低い声でそう呼んだ。
うっすらと、少年は瞼を開けた。
前へ top 次へ