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それは、突然のことだった。
「おい」
帰宅すると、クローゼットの前の食事がそのままに置かれていた。
クローゼットを蹴っても、反応がない。
ちっと舌打ちをして、乱暴に開けた。
暗いクローゼットの中に、部屋の光が差し込んだ。
照らされて浮かんだのは、白い背中。
こちらに背を向けたまま、少年は寝そべっていた。
「いつまで寝ている」
背中を蹴っても、ゆら、と揺れるだけで反応がなかった。
苛立って肩を掴み、身体をこちらに向かせた。
「…………」
ぞく、と一瞬、鳥肌が立った。
少年は静かに目を瞑っていた。
色が無くなったように真っ青な顔をして、眠っていた。
人形のように、美しい横顔。
死んだ、と思った。
「…………」
少年の首の後ろと膝の下に手を差し込み、抱き上げた。
初めて、少年を抱き上げた。
かくん、と力が抜けたように首が後ろにのけぞった。
細い両腕はだらんと垂れ下がったままだった。
「……、」
ふと、少年の瞼が微かに開いた。
微かな浅い息を繰り返していた。
もうすぐ死ぬのだと、思った。
一瞬で心の中を虚無感が走った。
目の前の、美しい少年が今にも消え去ろうとしていた。
これは、何と言う感情なのか。
ただ、腕の中の軽すぎる少年の重みを、忘れたくは、なかった。
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