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「甲斐さん、」
「ん」



めぐむが細い腕を伸ばしてきたから、背中を支えて上半身を起こした。
くた、と俺の肩に頭を置いて、はふ、と息を吐いていた。

めぐむは、決まって満月になると具合が悪くなる。
月明かりが増すと、力を吸い取られていくように、めぐむは体調を崩すのだ。



「めぐむ、ご飯は?」
「今日は、いらなぁい」
「そう」
「甲斐さん、良い匂い」



俺はいつも花屋の匂いを漂わせているから、めぐむは俺の匂いが好きらしい。
すんすんと鼻を鳴らして、俺の首筋にすり寄った。

眠っていたからか、めぐむの身体はほんわりと熱かった。
軽すぎる身体を横抱きにして、縁側に出た。
足を下ろし、めぐむを脚の上に乗せるように座った。

俺たちの気配に気付いた三毛猫のみぃが、ふらりとやってきた。
俺の隣に丸くなって座り、月明かりを浴びる。



「……へへ、良いでしょ」



突然めぐむが庭に向かって喋った。
『誰か』と会話をしている。



「何て?」
「そこは、居心地が良さそうねって」



めぐむの細い指が差したのは、庭の端にある、小さな木だった。
秋には金木犀の柔らかい匂いが漂う木だ。
俺がそっちを見やると、返事をするように枝が揺れた。



「みんな、甲斐さんが好きだから、僕が羨ましいみたい」



ぶわ、と一際強い風が吹いて、植物が一斉に揺れた。
隣でみぃが、にゃあ、と鳴いた。
めぐむは俺の腕の中で、ふふ、と笑っている。

この自然の大合唱にも、すっかり慣れてしまった。



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