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街から離れた田舎に、俺の祖父母が住んでいた家が残っていた。
人が住まないと悪くなるという親の意見もあり、俺がそれを買って出た。
めぐむを連れて、生活は始まった。
めぐむは俺のことを「甲斐さん」と呼ぶ。
俺は「めぐむ」と呼ぶ。
俺は二十四で、めぐむは十八。
出会ったときは、まだ高校生だった。
めぐむに家族はいない。
親はいるけれど、家にはいないらしい。
言わないけれど、特殊な能力が関係しているのだと思う。
家族のことを聞くとめぐむは精神的に弱ってしまうから、聞かないことにしている。
「甲斐さん、いってらっしゃい」
まだパジャマの、首元がだらけた大きいシャツを着ているめぐむは、玄関でひらひらと手を振った。
ふにゃ、と安心したように笑う。
めぐむについて知っているのは、それだけ。
街の喧騒の中で、めぐむは窮屈そうに、苦しそうに生きていた。
だから、俺がここに連れ出した。
それからめぐむは、幸せそうに笑うようになった。
家事をして、植物の世話をしている。
繊細で、壊れやすくて、優しいから。
植物を丁寧に育てるように、ゆるやかな時間の中で、めぐむは生きている。
「いってきます」
頭一つ分は小さなめぐむの額にキスを落とすと、きょとん、と大きな目を丸くする。
また、ふにゃ、と幸せそうに笑う。
きっとこの後、植物たちに報告するだろう。
恥ずかしさを知らなくて素直だから、佐久間さんにも言うだろう。
そして俺がからかわれるのだ。
こうして、俺の一日が始まる。
車のキーを握って、めぐむに手を振った。
今日も、良い朝だ。
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