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「甲斐さん、きょうは、なんじにかえってくる?」
「八時くらい」
「はーい」



最後に洗ったマグカップの底まで、めぐむは丁寧に拭きあげた。

敷きっぱなしだった布団を畳んで、押入れの中に仕舞う。
めぐむはいつも力がなくて押入れの上まで上げられないから、畳む役目。
押入れの中にいれるのは、俺の役目。
ふざけたようにめぐむが布団の中にもぐるから、俺もふざけてもぐる。



「甲斐さん、くすぐったい」
「くすぐらせてるからな」
「ふふ」



めぐむと出会ったのは、ほんの半年前のことだった。
毎日のように顔を出す客、それがめぐむだった。



「おはよぉ」



都会の潰れそうに小さな花屋の入り口で、めぐむはしゃがみ込んで、マーガレットに話しかけていた。
不思議なその小柄な男を、周りは少し気味がった。
逆に俺は、めぐむに惹かれた。

めぐむは、植物と会話が出来る。
不思議な能力は、普通には受け入れられなかった。
浮世離れした雰囲気は、その特殊な能力から来ているものだった。

普通の俗世に生きていくには、めぐむはあまりに繊細だった。



「一緒に、住もっか」



提案したときはまだ互いの名前も知らなかったし、一方的に観ていた俺とは違って、めぐむは俺のことを知らなかったと思う。



「はーい」



返事は、素直にやってきた。



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