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夜は、蛙の大合唱。
朝は、鶏の挨拶大会。
「ん」
朝が、やってきた。
のそのそと布団から這い出て、蚊帳を捲って外出る。
みしりと軋む畳を踏みつけて六畳の部屋を出るとすぐに縁側になる。
つるつると滑りそうなほど磨かれている縁側に裸足で立つと、寝起きの火照った身体にはひんやりと感じて気持ち良い。
昨晩閉めた雨戸を開けると、眩しいくらいの太陽が直撃してきた。
もう暖かくなってきたから、今日は雨戸は出さないでおこう。
くあ、と腕を上に伸ばして欠伸をした。
縁側から見える小さな庭園には、緑がすくすくと育っている。
緑のトマトが赤く染まるのは、あと少しだろう。
パセリは採って、今朝のスープに散らそう。
「めぐむ、」
蚊帳の中で、めぐむが眩しそうに寝返りを打った。
布団が綺麗に捲れてしまっている。
白いシャツから背中が丸見えで、恐竜のような背骨が並んでいた。
「めぐむ、朝」
蚊帳の中に入ってめぐむを揺すり起こすと、うっすらと目が開いた。
「あさ?」
「朝」
「……おはよぉ」
「おはよ」
「おやすみなさぁい」
「まてまて」
めぐむは低血圧だから、いつも朝はぐずる。
「今日の朝は、佐久間さんがくれた苺」
「いちごっ」
ぐずるくせに、食い意地は張っている。
ぱくぱく食べるのに細いのはどうしてだろう。
ぴょんっ、と音がしそうな勢いで布団を飛び出しためぐむは、ばたばたと顔を洗いに洗面台に向かっていった。
てろっとしたスウェットの裾を引きずりながら、俺もその背中を追った。
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