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「甲斐さん、明日は雨みたい」
「天気予報では晴れだったけど」



こういうときは、大体めぐむの言うことが当たる。
水分に敏感な植物たちの声は、人智を超えるのだ。



「もう梅雨?」
「いや、まだだろ」
「まだかぁ」
「……めぐむ、具合悪いんだろ。寝てろ」
「寝なぁい」



ぐずるように、俺の首に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてくる。
めぐむはいつも良い匂いがする。
俺と同じ洗剤を使っているはずなのに、それらがめぐむの体臭と混じって、違う匂いを発する。



「甲斐さんとお喋りするの」
「……そう」
「ふふ」



宥めるように、背中をぽん、ぽん、と一定のリズムで叩いた。

時々、特にこういう静かな夜には、考える。
俺とめぐむは、なんていう関係なんだろう。

友達というには、言葉が足りな過ぎる。
ただの同居人というには、存在が大き過ぎる。
恋人のそれにも似ているけれど、俺とめぐむは気持ちを通わせたことはない。

めぐむのことは好きだ。
恋愛の『好き』なのかは、よくわからない。
わからないけれど、傍にいないと落ち着かない。
一緒じゃないと、何か足りないと思ってしまう。



「甲斐さんは、僕の、空気なの」



いつか、めぐむがそう言ったことがある。



「甲斐さんと出会って、僕はやっと、息ができるようになった」



窮屈そうに、喧騒に塗れる街で、めぐむは生きていたから。



「綺麗な、夜」



めぐむが月に向かって手を伸ばして、そう言うから。



「そうだな」



そんなことはどうでも良いか、と思考を投げ捨てて、月を見上げた。



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