6
半開きになった慧の唇に、躊躇いもなく自分のそれを合わせた。
口の中に含んだ冷たい水を注いでいく。
慧の頭を少し持ちあげると、こくん、と慧の喉仏が動いた。
もう一度、水を含んだ。
かさついた慧の唇に、水を注いでいく。
こくん、こくん、と動く喉が、確かに生を主張した。
「慧、」
夏はまだ、終わってない。
「慧っ」
向日葵はまだ、枯れていない。
俺が何度でも、水を注ぐから。
だから、夏が終わるまでは、咲いていて。
生きて。
「げほっ……けほ、っ、けほっ」
何度か水を飲ませたら、慧が咳をした。
口の端から少しだけ水が漏れて、俺の手の甲で拭った。
息を整えさせるように、上半身を起こして背中をとんとんと叩く。
しばらく咳をしていた慧は、段々と呼吸を整えた。
「よ、う?」
まだ、生きてる。
「なんで、泣くの」
たまらなくなって、細い身体を抱き締めた。
気付かないふりをしていた、薬品の匂いを、いっぱいに吸い込んだ。
まだ、慧はここにいる。
俺のシャツを、握ってくれている。
「好き」
まだ、恋は始まったばかりだから。
どうか、夏を生きて。
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