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慧は、この神社の宮司の孫らしかった。
本殿の裏手で麦茶を御馳走になりながら、俺も慧と並んで足をぶらぶら揺らした。
「陽(よう)は、あっちの町から来たんだ」
「そう、ばーちゃんちがこっちにあって」
「行ったことあるよ、その町」
慧はばあちゃんのような、この土地の訛り言葉がなかった。
凛とした声は正しくて、少し違和感があった。
かろん、と手元のコップの中で氷が溶けた。
日陰は随分と涼しく感じる。
じりじりと照りつける陽が、目の前に広がる木々を照らしていた。
「僕も、おじいちゃんがいるから来たんだ」
「じゃあ、夏休みの間?」
「……そうだね、夏休みの間」
慧は何故か困ったように笑って、麦茶を煽った。
こくん、と喉仏が上下する。
並ぶとわかるけれど、慧は俺と同い年なのに、随分と小柄だった。
後ろ姿だったら女の子に間違えるんじゃないかと思うくらいに。
「僕はいつもここにいるから、また遊びに来てよ、陽」
「おう!」
ばあちゃんの家にいる間の話し相手が出来たと思って、俺は嬉しかった。
次の日も、その次の日も、俺は暇なときには慧に会いに行った。
向日葵はいつも、太陽に向かって花開いていた。
それを見ながらひたすら坂を登り、階段を上がり、慧に会いに行った。
慧は言葉通り、いつも社殿の裏手でぼんやりと座っていた。
おかしなやつだなと思った。
おかしなやつと言えば、慧は時々、妙な咳をすることがあった。
大丈夫、と言って苦しそうな顔を無理矢理笑わせていた。
あんまり苦しそうだから背中をさすると、服の上からではわからなかった身体の薄さを感じて、驚いた。
慧は、自分のことはあまり話さなかった。
学校のことも話さなかった。
絶対に、日陰から出ようとしなかった。
夏の真っ盛りに、遊び盛りの高校生で、真っ白な肌をしていた。
首や手首は、折れそうに細かった。
だんだん、慧のことを察するようになっていた。
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