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「わっ……」



一瞬、幽霊かと思った。

本殿の裏で、縁に座っている人影があった。
何をするわけでもなくぼんやりと、素足をぶらぶら揺らしながら、その人影は日陰の中で涼んでいた。
足元で猫が眠っていた。

幽霊かと思ったのは、あんまり綺麗な人だったから。
白い肌は病的で、綺麗な横顔が風を受け、気持ち良さそうに目を細めた。
てろっとしているシャツが、ぱたぱたと揺らめいた。



「……?」
「あ」



俺が見ていることに気付いたその人は、俺を見て首を傾げた。
ボブヘアに近い髪は、肌と同じく少し色素が薄い。
多分男だろうと思ったのは、のっぺりとした胸と控えめな主張をする喉仏のおかげだ。



「こ、こんちは」



同じくらいの歳か、年下か。
言葉が出なくてとりあえず挨拶をすると、男は綺麗な顔で笑みを作った。



「こんにちは」



透き通った声は、蝉の五月蠅い声を真っすぐに通って俺の耳に届いた。



「とりあえず、何か、飲む?」



幽霊のように見えた男は意外にも社交的で、そう俺に提案した。


高校二年生の夏、夏休みど真ん中、何もない田舎町の寂れた神社。
俺は、慧と出会った。



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